中国発ユニコーン KEENON Robotics 屋内ロボットで「無人配送」の普及を加速させる
2023-01-24

KEENON Robotics(本社:中国上海市)は、スマート無人配送ロボットソリューションを手掛ける中国ユニコーン企業。2010年設立で現在、中国国内全省のサービス業を対象にロボットを提供する。2021年には、国内飲食業界商業ロボット領域における市場シェアを48.6%(米調査会社IDC調べ)に拡大。国外でもすでに60カ国・地域へ進出している。COOの万彬(Wan Bin)氏によれば、2023年には世界中のパートナーとともに、さらに踏み込んだ「地域密着型の市場開拓」を進めていく予定だ。同社は、日本を世界トップ3に入る市場として重要視しており、3桁台の成長率を見通す。万彬氏に製品の特徴、成長の背景、日本市場展開の進捗とその将来展望について、話を聞いた。 

※TECHBLITZのコンテンツパートナーであるジャンシン(匠新)の協力で、中国スタートアップの情報を紹介します。

 

配膳・配送から消毒まで レストランやホテル、病院などで広がる導入

――貴社のプロダクトやソリューションについて詳しく教えてください。

 KEENON Roboticsは、屋内配送ロボットを取り扱う、一定以上の規模を誇るスタートアップです。過去には、幸運なことに、ソフトバンクビジョンファンド(SBVF)や中金甲子(CCIC ALPHA)などの投資家からの支援を得て、合計2億ドル以上の資金調達を受けました。現在の企業価値は、約10億ドルとなっており、ユニコーン企業に相当します。 

 私たちの製品は、主に無人運転技術を対象とした屋内ロボットで、自律ナビゲーションや自律障害物回避などの特長を有しています。適応される業界・活用場面は現時点で、主にサービス業に集中しています。レストランに限らず、ホテルやマンション、娯楽施設(カラオケなど)、病院、デパート、オフィスなどの屋内での活用場面が含まれます。私たちのロボットは、主に配送の業務を遂行します。 

 例えば、レストランでは食事、ホテルでは利用客の食事やアメニティのデリバリー、そしてオフィスでは書類を配送します。配送の他にも、コンシェルジュ機能や案内、消毒などにも応用できるため、私たちは、レストラン、ホテル、消毒作業、医療などの適応場面を対象とする複数の製品ラインナップを提供できます。

 

 私たちは、これらのロボットを活用し、効率化を実現することで、顧客が直面している従業員不足や繰り返し行われる機械的な労働の問題を解決することに尽力しています。現代社会では、労働力の側面における矛盾がますます明確になってきています。そこで、まさに私たちがロボット製品を通じて、人々が自身の仕事をより効率良く完了する手助けをし、重労働の負担から解放させることができます。この取り組みにより、人々の幸福指数や仕事の喜び、さらには心身の健康状態を向上することにも繋がります。 

 私たちは、将来的にこの課題がより顕著になり、それに伴う労働力不足のギャップもますます拡大し、ロボットを活用できる業務のパターンや人との分業もより明確になっていくと考えています。屋内での反復した移動を伴う作業や運搬業務、そして案内業務などの仕事の場合、それらの作業を代わりに担えるロボットに対する需要の数や市場規模もますます大きくなっていくでしょう。今後は技術の進歩に伴い、私たちの製品がニーズを満たすことができる度合いも、次第に高くなっていく見込みとなっています。 

 総じて、私たちの製品を通じて、企業は雇用の問題を解決し、オペレーション効率の向上やマネジメント能力の強化を図ることができます。ロボットの使用者あるいはサービス業従事者は、日々の業務における簡単な反復作業をサポートしてくれるツールを手に入れることになり、より多くの付加価値をもつ仕事に時間を割くことができるようになります。そして私たち自身は、社会により良い価値をもたらすことができます。つまり、私たちが取り組んでいるのは、関係者すべてに利益をもたらす、社会的価値を有する事業だと言えます。

 

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中国シェア「48.6%」を実現する「成長の原動力」とは?

――米調査会社IDCのデータによれば、2021年中国国内の飲食業界商業ロボット領域市場シェアにおいて、貴社は48.6%を占めています。貴社は、この市場シェアをどのように実現しましたか。

私たちの成長の原動力には5つの要素があると考えています。 

 1つ目は、高い技術研究開発能力です。私たちの製品は、基本的に独自の知的財産権があります。コアとなる部品の設計から機器全体の設計、アルゴリズムとハードウェアの組み合わせ、そして複数の応用場面に対する適応性までが、私たちの製品の基礎となっています。 

 2つ目は、研究開発能力を基盤とする、非常に優れた製品化・プロセス化能力です。大量生産における規模とコストの面では、非常に強い戦略的優位性を有しています。そのため、生産の規模が大きくなれば、経済性の面でもより良いパフォーマンスを得ることができます。 

 3つ目は、より大きな生産規模と強い技術を兼ね備えるようになると、製品の知能レベルも高度になるというスマート製品の特性です。これにより、より多くの製品が自律的に適応・学習すると同時に、より多くの活用場面におけるニーズに応えることが可能な、より優れたアルゴリズムを開発することができます。こうして、ロボット自体が知能を進化させることで、ロボットがより自律的に能力を発揮することができるようになります。 

 4つ目は、マーケティングと営業活動における多くの革新的な取り組みです。私たちは、中国国内では、直接販売とチャネル販売の両方を行うほか、多くのその他IT企業におけるオフラインマーケティング手法を参考にしています。海外では、韓国の現代ロボティクスやソフトバンクグループのソフトバンクロボティクスなどの著名大企業と連携しています。市場開拓の面では、RaaS(Robotics as a Service)やRaaI(Robotics as a Infrastructure)という概念を確立し、その概念モデルの模索と拡大を進めています。私たちの市場開拓の能力は、中国のロボット企業の中でも、トップクラスにあると思います。 

 5つ目は、企業経営管理の面における盤石な戦略性と計画性です。私たちは、安定的な経営を1つの信条としています。2010年の企業設立以来、私たちは多くの困難を経験し、起伏の激しいロボット市場を生き抜いてきました。その過程で、私たちの経営は一貫して、健全な状態を維持しています。企業に持続的な成長をもたらすことができるかは非常に重要であり、成長を持続させること自体が、全体的なビジネスの向上につながると考えています。 

 総じて、これらの要素が積み重なり、業界のリーダーとして、市場シェア48.6%という業績を達成するに至っています。


――貴社はR&Dを重視されているとのことでした。2022年8月には、中国湖北省武漢市にて、新規のR&Dセンターを設立しています。この新規のR&Dセンターは、従来からある上海市のR&Dセンターと比較し、どのような位置づけをしていますか。


 まず研究開発には、技術の応用と生産規模の2つの側面があります。技術応用の面では、とある1つの環境下で、デモやアクションをこなすロボットを製作できる企業は現在も多くあります。しかし、その多くのロボットは、別の環境に置かれた場合の適応性は、そこまで優れたものではないのが現状です。生産規模の面では、ロボット業界では、大量生産というハードルを越えられる企業は依然として少なく、またその量産化コストを抑えられる企業もかなり少ないのです。ロボットを取り扱う企業は総じてたくさん存在しますが、1万台という量産化規模を実現しているのは、おそらく3社から5社のみとなっています。 

 武漢市の新しいR&Dセンターは、私の複数の同僚が、同じく武漢市にある華中科技大学の出身であることを背景として設立するに至りました。武漢市は、私たちの母校の所在地でもあり、元々関連する研究開発スタッフがいた場所でもあります。このR&Dセンターは、主に今までとは異なる応用場面に対応した製品の事前研究を担う位置づけとなっています。例えば、ホテルの場合、食事デリバリー以外に新しいアプリケーションがないか、レストランの場合、配送以外で開発できる応用できる機能はないか、などについて研究しています。


ソフトバンクロボティクスと強力なパートナーシップ


――貴社は、2021年8月にソフトバンクビジョンファンドからの資金調達に成功しています。この資金調達と同社との戦略提携を通じて、日本市場を開拓されてきました。現在の日本市場進出の進展状況はどのようになっていますか。


 海外進出は、私たちの重要な発展戦略の1つです。その中で、日本は、重要な市場として位置付けています。日本は、優れた経済発展を遂げている一方で、高齢化や労働力不足などの問題に直面しています。加えて、ロボットに対する社会的な認知度が高いのが特徴です。そこで、日本では、私たちの株主であるソフトバンクグループのソフトバンクロボティクスと強力なパートナーシップを結んでいます。 

 日本国内では、様々な業界における企業と幅広く連携しています。現在、日本で利用量が最も大きいのは、主に飲食業です。飲食業は、サービス業界の中でも、規模が最も大きく、中国には約1000万軒、日本には約140万軒の飲食店があります。 

 私たちの提携企業は、東京都のみならず、神奈川県や埼玉県などにも店舗を構えています。例えば、埼玉のうどん屋「365日製麺所」は、私たちのロボットを3台導入しています。そのほか、焼肉チェーン店「安楽亭」の神奈川支店やカフェなどの飲食業を中心とした導入が進んでいるのみならず、ホテルや図書館、博物館などの公共施設での導入も始まっています。日本では、中国ですでに導入実績のある主要な応用場面をコピーすることをメインとして、現地にしかない活用方法における実装を開拓しています。


――貴社は、日本でどのようなチャネルを通じて、市場開拓を進めていますか。


 私たちは、東京、ソウル、ロサンゼルス、ドバイ、アムステルダムの世界主要都市に子会社を設立しています。連携手法は2つあります。1つは代理店を通じた代理販売で、日本の場合、現在数十カ所の代理店があります。もう1つは、現地カスタマイズ製品の共同開発です。このカスタマイズ製品には、KEENON Roboticsのロゴと連携パートナーのロゴの両方が貼られています。日本市場においては、ソフトバンクロボティクスと連携することが多くなっています。ソフトバンクグループは、日本における私たちのグローバル戦略パートナーであり、日本のみならず、他の地域でも密接に連携しています。


複数のロボットが連携して稼働 もはや店舗内のインフラの一部に

――顧客との代表的な事例について教えてください。


 先ほど言及した埼玉県にあるうどん屋「365日製麺所」の例を具体的に説明しましょう。ここで導入されている3つのロボットは、お互いに連携して稼働しています。実は、複数のロボットを同じ空間で同時に運用することは、技術的に難しく、この問題を解決できる企業は多くありません。なぜなら、ルートタスクの相互調整のほか、重複作業や衝突の回避という複雑な問題を処理するには高度な技術を必要とするからです。 

 この事例において、仮にロボットの作業量を測定した場合、基本的に24時間365日、疲労も休憩もなく働けるため、1台のロボットは理論上1.4人分の労働力に相当すると言えます。また、実装されているロボットは、1回の配送において40kg分の積載量まで対応しており、時には1回の配送でテーブル1つの人数分全ての料理を提供できることもあります。 

 もちろん、実際の応用において、屋内で単純な反復作業を行う主体として、ロボットに人手の補助を行わせるかどうか、そしてどうロボットを応用し、稼働させるのかは、最終的に企業の経営者や店舗の責任者が決めることです。いずれにしても、ロボットと人をサービス空間内で同時に稼働させることは、従業員がより多くの時間を使って顧客をもてなし、顧客のサービス体験を向上させることに繋がります。 

 例えば、上海の人民広場にある火鍋レストランでは、私たちのロボットを11台導入しています。そのうち、1台は入口でお客様をお迎えし、残りの10台は店内で料理を提供。この10台のロボットのうち4台は肉素材、そして別の4台は野菜素材の配送を担当しています。こうして、肉素材と野菜素材を分担することで、より衛生的な配送が可能になります。最後に残りの2台は、飲み物の配送を担当するという役割分担になっています。 

 1つの店舗内でこれだけ多くのロボットを運用した場合、ロボットはもはや店舗内のインフラの一部になっているのがわかります。このインフラを基礎として、従業員のワークフローやスタッフ構成を再度組み替えることができるのです。この10台のロボットがない状態と比較した場合、その差は大きくなります。1台の導入では効果が実感できるとは限らないのは確かですが、これだけ多くのロボットを同時に稼働すると、その効果は絶大です。

 

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デジタル化のアップグレード、変革のプロセスになる

――貴社は、すでに60カ国以上の地域に進出しています。海外進出を筆頭とした、今後のビジネスプランについて教えてください。


 私たちは2022年、海外進出を進めるための準備を完了させました。実は2021年までは、貿易輸出や試験などの方式を通じて海外市場への進出を推進していました。しかし、2022年になり、国際事業部を正式に設立しています。この国際事業部は、営業、技術サポート、事務を含めた200人近いスタッフから構成されており、そのうちの一部は海外市場の現地従業員です。国外では、香港を加えた6つの子会社を設立し、合計6つの国外支店を運営しています。また、国外には、数百に至る代理店などのパートナーがいるほか、2022年には各主要市場で要求される製品認証の取得も完了させています。 

 2023年は、世界中のパートナーとともに、さらに踏み込んだ市場開拓を進めていく予定です。具体的には、以下の3つに分けることができます。1つ目は、現地特有の応用シーンを深堀することです。いくつかの応用シーンは、中国国内ではあまり見られない一方で、国外ではより多く見られ、市場空間が広がっているということがあります。例えば、北米の介護産業は中国よりはるかに成熟しているため、カナダの老人ホームは、私たちのロボットの最適な応用シーンでしょう。また、アメリカには、中国大陸にはないカジノにおける応用シーンがあります。 

 2つ目は、代理店などのパートナーと地域密着型の市場開拓を強化することです。例えば、日本の場合、関東、関西、北海道の3つの各地域に分けて、それぞれ対応するパートナーが必要であり、彼らと一緒に市場開拓をしなければなりません。こうして初めて、健全な販売や物流のネットワーク、そしてサービスのネットワークを形成することができます。 

 3つ目は、企業組織の能力を継続的に最適化することです。今後は、マーケティングと営業活動の専門人材を必要とするほか、業界の事情と業界のリソースに精通した人材を組み込んでいくことで、より強力な組織を構築していくことになります。


――最後に、数多くの国々において市場開拓を進める中で、日本市場をどのように捉えていますか。


 日本市場は、私たちの海外進出戦略全体のなかで、グローバルでトップ3に入ることができるほどの重要性を有しています。この点は、日本の経済規模に預かるところが大きい一方で、より顕著な労働力不足という社会問題を根源とするニーズも踏まえたものです。 

 加えて、日本のロボット産業は欧米と比較し、より先進的な発展を遂げている面があると同時に、日本の一般消費者は、欧米よりロボットを受け入れやすいと考察しています。また、日本は上海からも近い距離にあるゆえに、2021年に開始したソフトバンクグループなどとの連携は、欧米市場への進出よりも半年先行しています。そのため、日本における業界パートナーとの連携エコシステムは、より進んでいます。 

 これらの多くの要因を総合的に考えた場合、私たちは2023年、日本市場の成長は非常に明るい見通しだと捉えています。日本は2023年、数千台のロボットを販売できるポテンシャルがあります。なぜなら、日本には多くの飲食チェーン店を運営する企業があり、彼らはデジタル化に対する要望を多く抱えているためです。私たちの製品とソリューションは、これらの要望とうまくマッチできるはずです。ロボットの導入自体は、デジタル化の一環とも言え、飲食チェーン店を運営する企業にとっては、デジタル化アップグレード・変革のプロセスともなります。日本は、すでに基礎が整った市場となっているため、私たちは2023年に100%から300%の成長を日本市場で達成できると信じています。